使えば使うほど増えるもの?

 〔そのとき、イエスは弟子たちにこのたとえを語られた。〕「天の国はまた次のようにたとえられる。ある人が旅行に出かけるとき、僕たちを呼んで、自分の財産を預けた。それぞれの力に応じて、一人には五タラントン、一人には二タラントン、もう一人には一タラントンを預けて旅に出かけた。

《早速、五タラントン預かった者は出て行き、それで商売をして、ほかに五タラントンをもうけた。同じように、二タラントン預かった者も、ほかに二タラントンをもうけた。しかし、一タラントン預かった者は、出て行って穴を掘り、主人の金を隠しておいた。》

さて、かなり日がたってから、僕たちの主人が帰って来て、彼らと清算を始めた。まず、五タラントン預かった者が進み出て、ほかの五タラントンを差し出して言った。『御主人様、五タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに五タラントンもうけました。』主人は言った。『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』」

≪「次に、二タラントン預かった者も進み出て行った。『御主人様、二タラントンお預けになりましたが、御覧ください。ほかに二タラントンもうけました。』主人は言った『忠実な良い僕だ。よくやった。お前は少しのものに忠実であったから、多くのものを管理させよう。主人と一緒に喜んでくれ。』ところで、一タラントン預かった者も進み出て言った。『御主人様、あなたは蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかき集められる厳しい方だと知っていましたので、恐ろしくなり、出かけて行って、あなたのタラントンを地の中に隠しておきました。御覧ください。これがあなたのお金です。』

主人は答えた。『怠け者の悪い僕だ。わたしが蒔かない所から刈り取り、散らさない所からかきあつめることを知っていたのか。それなら、わたしの金を銀行に入れておくべきであった。そうしておけば、帰って来たとき、利息付きで返してもらえたのに。さあ、そのタラントンをこの男から取り上げて、十タラントン持っている者に与えよ。だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。この役に立たない僕を外の暗闇に追い出せ。そこで泣きわめいて歯ぎしりするだろう。』」≫

マタイ25.14-30

【福音の小窓】

 幼稚園の子供たちに、聖堂でお話をすることがあります。ある時こんな質問をしました。「クレヨンは、使えば、使うほど短く減っていくでしょ。消しゴムも使えば、使うほど小さくなるでしょ。靴だって、履いて使えば、使うほど底が減るでしょ。では、使えば、使うほど増えていくものは何でしょうか?」この質問に子供たちは、首をかしげていましたが、一人の女の子が手をあげて、小さい声で「やさしい心」と答えました。私は「そうだね、正解です。でも答えは一つだけじゃありません。ほかには、ないかなぁ?」と問いました。すると男の子が立ち上がり「勇気!」と言いました。私は「ピンポーン!ほかには?」。おずおずと手を挙げた女の子が「愛」と答えました。
 そうです「やさしい心」も「勇気」も「愛」も知っているだけで使わなければ、役には立ちません。最初はぎこちない「やさしさ」でも、小さな「勇気」でも、ささやかな「愛」でも、使えば使うほど増えるのです。使うからこそ増えるのです。

 修道会の一人の修道士が亡くなりました。歳を重ねても興味心が旺盛で、横笛、尺八、料理と多くの特技を持っていましたが、中でも手品には飛び切りの思い入れを持っていました。頼まれると80歳を過ぎても、ピエロの格好のまま、学童保育の施設、老人ホーム、お祭りのステージなどへサッと出かけ、得意の手品を披露します。だから街でブラザーはチョットしたスターでした。その死を知った方々が「ブラザーの手品を見られなくなって寂しくなった」と悲しんでくれました。でもブラザーの手品は、お世辞にも上手とは言えないものでした。おもちゃのハトが帽子からポロリと落ちたり、結んだ縄がほどけなくなったり、消えるはずのコインがポケットの中からポロポロとこぼれ落ちたり、いつも種がミエミエでした。・・はっきり言えば、ブラザーの手品はヘタクソでした。でも、そんな手品を誰もが大好きでした。それはブラザーの手品には愛情がこもっていたからです。見る人を楽しませたい、喜ばせたい、和ませたい。そんな熱い思いがあふれていたからこそ、ブラザーの手品はヘタクソでも、みんなの心に響いたのです。

 ブラザーが神さまから預かったのは、決して上手とは言えない手品というタラントンでした。でもその小さなタラントンをブラザーは、自分のためではなく、多くの人のために使い続けたのです。手品を通して楽しませ、喜びを与えようとしたのです。だからこそ多くの人が、ブラザーの手品を愛したのです。いやブラザーを愛したのです。

 私たちもそれぞれに、神さまからタラントンを預かっています。どんなタラントンを預かっているか?どれ程の量を預かっているか?私たちはタラントンの大きさばかりを気にしますが、大事なのは、その事ではなく、神さまから預かったタラントンを、どれほど大切に増やし、人々に分け与えるかではないでしょうか。

神さまから預かった「やさしさ」や「勇気」や「愛」と言うタラントンは使うほど増えていきますが、使わなければ増えないばかりか、朽ち果てていくのです。

「だれでも持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる」(マタイ25.29)

使えば、使うほど増える物は何ですか?それは「借金」ばかりではありません。

イエズス・マリアの聖心会
本間研二